2017/2/1、10-FEETのNewシングル『ヒトリセカイ×ヒトリズム』がリリースされた。これがすごくヤバかった良かったので、今日はその話をしようと思う。
新興宗教10-FEET
まずはなにも考えず、『火とリズム』のPVを観て欲しい。
なにこれ。
火を囲んで座禅を組む40過ぎのおじさん達。80年代〜90年代ごろの下手くそなバラエティで使われてたような馬鹿エフェクト。時折差し込まれるヤバめなパターンの背景。ビデオテープ時代の映像にありがちな黒い斑点。
さながら、90年代あちこちのメディアをお騒がせしたアブな目な宗教ビデオよ。こんなハイリスクなビジュアルでプロモーションして大丈夫か。
絶対これやばめなサブリミナル仕込まれてるだろ。なんか観たらすごい疲れるもん。10秒に1フレームだけとかで尊師的な画像仕込まれてるだろこれ。弁当屋さんでも始めんのか10-FEET。
しかしこのPVで売る気あるのか。このビジュアルだとサビまでたどり着かなくて離脱した人もかなりの数いると思うので、あらかじめ強めに言っておきたい。我慢してこの壊れたビデオを2分近く観続けると、終盤で超かっこいいサビに辿り着けるぞ!
YouTubeのコメント観ると「独特なMVでかっこいい!」みたいなコメントちょいちょいあるんだけどお前らよく考え直せ。そんなわけあるか。クソだせえだろ。これをかっこいいって言われるのはテンフィ側も心外だろうし、逆にこれを礼賛したら「これ俺らイケるんちゃう…?」って音楽以外の非常にインモラルな稼ぎ方に走る可能性もあるからこういうのはファンの方で目一杯抗議活動しろ。
曲はすごくいい
この『火とリズム』、1回目のサビまで1:35ちょっとある。今の邦楽ロックの常識から考えるとやや遅め。しかもサビまでの展開が多い。開始1分以内でパパーンとテンポよくサビに行く曲に慣れた邦楽ロックの民には、正直受けにくい作りになってると思う。10-FEETぐらいキャリアのあるバンドじゃないと、こういう曲作りはリスクがあってなかなかできない。
しかし実際聴いてみると、不思議なぐらい退屈しない。初回のサビまでは展開多いのだけど、その後はすぐ2パターンのメロ挟んでまた立て続けにサビに入る。ベースをど真ん中に据えた間奏も耳馴染みが良くて、最後まで全く飽きない曲作り。
サビ前にピタッとブレイク入れて一気に弾けさせるライブ映えする進行とか、もはやテンフィの伝統芸能の域よ。超かっこいいので、是非どぎついビジュアルに耐えて2分間PV観て欲しい。
ヒトリセカイのWANIMA感、10-FEETのかっこよさ
こっちのPVは、『火とリズム』の馬鹿PVっぷりに比べて非常にロックバンドらしい仕上がり。段々画面の明度が上がっていって、傷だらけの10-FEETが浮かび上がってくる仕組み。これはギリギリLINEで友達に送っても許される。「傷だらけのおじさんNG」とかいう華奢目なサブカルクソ女以外には送れる。
で、肝心の曲だけど、これはもうむき出しのWANIMA路線。僕は大好き。どえらいキャッチーなメロディに短くて強めの口馴染み良い言葉を何回も何回も繰り返す構図。WANIMAさんこんにちはですよ。
WANIMA- THANX(OFFICIAL VIDEO) - YouTube
「WANIMAがテンフィっぽいねん」という意見はごもっともなんだけど、あまりにWANIMAのお株を奪うというか、WANIMAの持ち味丸出しだったのでこれはむしろ逆にテンフィがWANIMA路線なのでは…?となった次第。あらためて言うけど、僕はこの曲もWANIMAも大好き。
それでWANIMAの話だけど、WANIMAがああして成功しているのは、ひとつ「若さ」ってのがあると思うんですよ。例えば、WANIMAの曲を年寄りがやっても絶対にウケないわけで。冷静に考えて、アルフィーの面々が『ともに』とか歌ってたら嫌でしょ。「なに『悩んだり泣いたりする今日も進め』とか言うてんねん。おっさん達の悩みって息子の反抗期とか更年期障害とかか?こっちはもっとナイーブでプリミティブな一人間の悩みやねん。」ってなるわけじゃん。
WANIMAが若くなかったら、WANIMAの歌は若者に刺さってなかったはず。それは端的に、WANIMAの若さがWANIMAの曲の説得力の一端を担ってたということ。
そこで翻って10-FEETの『ヒトリセカイ』、つくりはモロにWANIMA路線。でも、おっさんが歌ってるはずなのにやたら説得力ある。おっさんが歌ってるはずなのにやたらかっこいい。普通、若さがなきゃこういう曲はやれない。若くないと、どこかこういう曲には「嘘が含まれてる」ように見えるからだ。
じゃあなんで10-FEETがやるとこんなにかっこいいか。ヒトリセカイの歌詞を見てもらえれば、語るに落ちるというか。
柄に似合わぬ繊細な比喩に、全部を言葉にしてしまわない慎重な言葉選び。この曲の説得力は、このワードセンスに拠ってる部分が大きいと思う。ちょっと言葉を選び間違えたら、ちょっと稚拙な比喩を使ったら、途端にこれを聴いた若者たちに「嘘」だと看破されてしまう。もちろんTAKUMAが嘘を書いてるとは思わないけど、若者の目にはそう映るリスクも大きい曲だと思う。それで、嘘に見えないばかりか説得力さえあるこの曲は、ひとえにTAKUMAの選んだ言葉がどこまでも正解だったからだと思うわけです。実はTAKUMA、めちゃくちゃ教養あるんじゃないかって思う。
40のおっさんがこういう曲をこんなにかっこよくやっちゃったら、若手はもはや戦えんじゃろこれ。ちょっと俺もおっさんというかおじいちゃんな言葉遣いになっちゃうけど、戦えんじゃろこれ。最高。
おわりに
10-FEETの新曲、個人的にすごく素晴らしい2曲だったなーと素朴に思う。きっとこれからも何度も聴くことになる。ちょっとPVは何度も観ると新しい宗教観に目覚めそうだからもう観ないけど。1回観ただけの今も「ブッダ 教え」でググって心を落ち着かせてる。
どちらの曲にも共通して思ったのは、10-FEETがこれだけキャリアを積んで今こういう曲をやれるのはすごく素晴らしいことだなー、ということ。YouTubeのコメントには「昔のテンフィっぽくて良い!」みたいなコメントがちょくちょくあったのだけど、僕は「今のテンフィだからこの曲をかっこよくやれるんじゃ」、と心のなかでそのコメント者をぶち殺してる。
ともあれ、去年リリースの『アンテナラスト』に引き続き、今回もすごくいい曲なので『ヒトリセカイ×ヒトリズム』、おすすめです。
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