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クリープハイプ尾崎世界観の『祐介』を読んだので、紹介・レビュー

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アメトークでも紹介されたので、クリープハイプ尾崎世界観の『祐介』を読んでみた。せっかく読んだので、紹介とかレビューとかをしようと思う。

最初に結論からいうと、めちゃくちゃおもしろいので是非読んで欲しい。

まずは簡単な『祐介』の紹介から。

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あらすじ

以下、単行本の帯から引用。

スーパーでアルバイトをしながら、いつかのスポットライトを夢見る売れないバンドマン。ライブをしても客は数名、メンバーの結束もバラバラ。恋をした相手はピンサロ嬢。どうでもいいセックスや些細な暴力。逆走の果てにみつけた物は……。

「尾崎祐介」が「尾崎世界観」になるまで。たったひとりのあなたを救う物語。

『祐介』のボリューム

この小説、大体どれぐらいのボリュームがあるか試算してみた。

・ページ数
総ページ数
141P

・1ページあたり文字数
39字×16行=1P最大624字
改行・空白等を考慮すると、
1P:500字程度

・総文字数
141P×500字=70,500字
約70,000字

人は大体1分で平均400〜600文字ぐらい読めるらしいので、目安としては2〜3時間程度で読める。

どんな小説?

売れないバンドマンが苦労しながらもスターダムを駆け上がる夢を目指すドタバタコメディ…ではない。

売れないバンドマンという部分だけはあってる。

スーパーでバイトをしながら出会った客や、ライブハウスで対バンをしたバンドマンや、バンド仲間と行った先のピンサロ嬢。そんな登場人物たちとの間に起きた些細な暴力やセックスや揉め事。卑屈な主人公の祐介が、それらの出来事を冷めた目で観察・分析する独白。

この小説に有名人ブログの書籍化ぐらいのものを期待して読むと、大いに期待を裏切られることになる。尾崎世界観のユーモアあふれる小話を期待して開いたフェスの民たちの心折れる姿が目に浮かぶ。

でも僕にとっては、いい方向に期待が裏切られた。自伝小説やドキュメンタリーを読むつもりで開いたら、文学だったから。

文学そのもの

尾崎世界観の『祐介』、ただ小説なだけじゃなくて、文学だ。

会話文中心に物語が進むポップな小説じゃない。ほぼ主人公の独白。描写が中心の構成。

東野圭吾とか辻村深月みたいなポップな小説ではなく、国語の教科書にあったような小説たちを思い浮かべて欲しい。どちらかというと教科書寄りの堅めの小説。

もちろん形式も文学というジャンルに近いけど、内容としてもとっても文学。

エログロナンセンスを取り揃えた、近現代文学のど真ん中を行くモチーフ。そして、最近の現代文学トレンドとしての、非正規雇用・貧しい若者による冷徹な自己批評。貧しくて悲惨な状況へのただの諦めではなく、それでも救いを見出す孤独で絶望的な葛藤。

そんな、現代文学の王道に真正面から挑んだ、出版業界から見ても真っ当な文学作品に仕上がっております。

鋭い観察力・比喩

尾崎世界観の書く文章は、比喩の切り口もするどい。優れた観察力や比喩は、優れた小説家の第一条件だ。

僕がすごく気に入った表現を試しに二点引用する。

まずは、祐介が恋するピンサロ嬢が、自分の地元に大好きなバンドがライブをしにきたときの思い出を話す場面。

「青森の田舎町で育ったんだけど、本当に周りになんにも無いから、毎日のように部屋の窓を開けてずっと音楽を聴いてて。死ぬほど好きだったバンドが一回だけ、車で二時間くらいのところにあるライブハウスにライブをしに来たの。
(中略)
 客電が落ちて、真っ暗な会場に歓声が響いたときに、なんか急に恥ずかしくなって、逃げ出したくなったの。こんな田舎町に居て、お前らはなにを叫んでるんだよって、なにも無いのに叫んだりするなよって。
(中略)
 ステージに出てきたばかりの大好きなバンドメンバーに謝りたくなった。こいつら全員頭がおかしいんですって。 
(中略)
 それから、一曲目が始まって、ボーカルが歌いはじめて驚いたの。本当に信じられないくらいに全然声が出てなくて。最初は驚いたんだけど、その歌を聴いていたら、嬉しくてたまらなくなってきて、気がついたら自分が叫んでいたの。なんか認めてもらえた気がして。CDで、くり返しくり返し馬鹿みたいに聴き続けてた曲の高いところで、CDとは程遠いかすれた声で情けなく裏返るその声を聴いてたら、窓からいつも見てたなにも無い絶望的な風景を認めてもらえたような気がして嬉しくて。 (略)」

次は、バンドの終わりを感じて祐介が、ライブハウスのトイレで今の自分の変化に気づく場面。

 壁に貼ってあるポスターやフライヤーを眺めながら、用も無いのに用を足す。そのなかで、「本気でプロを目指せる仲間を募集」と書かれた手書きの汚い文字が目についた。太いマジックの線はところどころにじんで、紙焼けして茶色くなっている。他人の夢はこんなにもうす汚く見える。
確かに本気でそう思っていた。本気でプロを目指していた。それでも、長時間蛍光灯の不健康な光に照らされて茶色くなっていく紙のように、すこしずつ自分の気持の変化に気がついていった。いつの間にか、客の居ないガラガラのライブハウスが音楽そのものになっていた。真っ暗なフロアで、客の代わりに現実がうごめいていた。

どちらも一流の、すごく鋭い観察だと思う。細かな部分での言い回しもおもしろい。

少しでも引っかかるものがあれば、是非手にとって読んで欲しい。通しで読むと、また自分にあうおもしろい表現に出会えるはず。

尾崎世界観、すごい

尾崎世界観

僕は『祐介』を読んで、素直に「尾崎世界観ほんとすげーなー」と思ったので、改めてどうすごいか強調しておきたい。

1. 小説を書くということ

色々とすごい点はあるのだけど、まずシンプルに、小説作品をきっちり完結した一つの物語として世に送り出せたということ。

70,000字も、一貫した文章を書くのってめちゃくちゃ大変です。

大学の卒論とかでも2万字程度が一般的。卒論を3個書く。しかも一貫性がある内容で。そう聞くと、どれぐらい大変なことかイメージしやすいと思う。

いま、仕事の合間に卒論、書けますか?

本業の音楽の間でやるには、あまりに大変な仕事だ。でも、こうして世の中に作品として送り出せたことは、手放しですごいことだと言えると思う。

2. 真正面から文学を書いたこと

普通に考えて、尾崎世界観クラスの知名度と人気があれば、下積み時代の苦労話や成功体験をブログみたいに気楽な文章で書けば、それだけで商業的にある程度成功するだろう。

でも、そうはせず、文学という全く他ジャンルの土俵に立って勝負をした。

リスクの大きな選択だ。

尾崎世界観クラスの知名度があるなかで、他の芸術分野に足を踏み入れるということは、すごく大きなリスクでもある。小説が評価されないと、「結局、『文学的な歌詞』とか言われてても、本物の文学の場では子供の遊びなんだ」というように、本業の音楽の現場でも評価を落とすことに繋がりかねない。

クリープハイプは、魅力的な世界観の歌詞が大きな武器となっているバンドだ。その武器に、ケチがついてしまうリスクの大きな選択だ。

僕は、この挑戦を途方もなくすごいことだと思う。

3. 評価されたこと

この小説『祐介』を、アメトーーク!で又吉が絶賛していた。読んだ今なら分かるが、あれは決してリップサービスではなかった。

読書家として知られる又吉だが、実際のところ、本当に文学ガチ勢だ。又吉が選ぶおすすめ小説のラインナップとかは、お堅い作家から新進気鋭の現代文学の若手まで幅広く、本当におもしろい小説をレコメンドしてくれる。

その又吉が、手放しで『祐介』を褒めていた。これは、素直にすごいことだと思う。

昔から、尾崎世界観は小説を書かせたらおもしろそうだ、というぼんやりした期待はあったと思う。おもしろい小説を書きそうな人は、やっぱりおもしろい小説を書くんだ。

おわりに

技術的な巧拙はともかく、この『祐介』、芥川賞ノミネートぐらいはあっていいと思った。というか文藝春秋はするつもりじゃないかな。中編小説だし、デビュー作だし、芥川賞の要件は満たしている。

この小説が商業的に成功するなら、芥川賞を受賞することも全くもって不思議なことではないと思う。

もちろん又吉の『火花』の成功があったという下地はあるが、小説以外のカルチャー出身者の私小説(*)はこんなにもおもしろいということを証明した。

出版業界にとっては、ちょっとしたブレイクスルーですよ。是非とも、文壇として適切な評価をフィードバックしてあげて欲しいと思った。

今回、『祐介』を読んで、邦楽ロックファンとして、邦楽ロックの最前線を走るアーティストは他のカルチャーにおいても活躍しうるんだ、ということがはっきり分かって僕は本当に嬉しい。

小説執筆にあたって、音楽とは異なる苦労や経験がたくさんあっただろうと思う。それらが今後、クリープハイプの音楽にどう反映されるかが楽しみでならない。

(*)私小説…作家の個人的な経験や心情を書いた小説

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